Last UpDate (09/07/09)

■勇者屋 〜 過去の罪 悠久の罰 〜 第1部 始まりと旅立ち編

序章

歴史によれば、戦争の黎明期、神に匹敵すると伝えられる「魔王」を長に掲げる魔族達は、その強力な魔力の恩恵か、人間を遙かに凌駕する身体能力と超能力を有し、彼らの軍隊は人間の軍隊を寄せ付けない戦闘能力を発揮していた。

数以外では魔族達に優位性をもたない人間達は、獣人や精霊達といった他種族と同盟を結ぶことで対抗したが、それでも能力的な差は埋まらず、魔族の優位は揺らぐことはなかった。

 

しかし、誰の目にも明らかな戦局の中、魔族の猛攻の前に人間達が滅びようとしていたその時、一人の男が颯爽と戦場に現れた。

彼は、手にした刀から繰り出す「流星斬り」と超絶な跳躍から生み出される「流星キック」の二つだけを武器に、瞬く間に魔族達を退け、当時の魔王までをも撃破するに至ったのである。

人間の危機を救った男は名も告げずに行方を眩ましたため、人々は彼を、何のヒネリもなく「流星勇者」と名付け、称えることとした。

 

これが、歴史に始めて現れた「勇者」である。

 

しかし、戦いはそれで終わらなかった。

魔王が倒されたにも拘わらず、魔族達は100年と間を置くことなく、新たな戦いを始めたのだ。

 

新たな「魔王」の元に。

 

その後、歴代の魔王と、歴史が産んだ勇者との戦いが続いた。

圧倒的に強力な魔王の前に、星の数ほどの勇者達が散った。

幾たびも。幾たびも。

 

長い時の間に、星の数ほどの種族が魔族の手によって滅んでいった。
 

長い時の間に、各種族の結束も、力と恐怖に引き裂かれていった。

 

長い、泥沼のような暗黒の時代が続いた。

 

しかし、1000年前。人々に大きな光が差した。

 

それまでの勇者達とは桁違いの戦闘能力と求心性を持った勇者達が現れたのだ。歴史の言う六勇者である。

 

大勇者バベルを筆頭として団結した彼らの活躍はめざましく、それまでの魔王領であった地域を破竹の勢いで次々に人々の手に奪い返した。

人々は勇者達の働きかけによって、再び種族を超えて軍隊を纏め、勇者達と共に魔王軍と戦った。

そして彼らは魔王の12のシモベである魔王の従騎士達を次々と撃破し、多くの命が失われた激戦の果て、ついに魔王に迫った。

 

魔王は倒された。

 

誰もが、今度こそ魔族との戦争の終わりを確信していた。

 

しかし、歴史は僅かな流れの変化さえも見せずに、直ちに繰り返された。

半月とせずに、新たな魔王が姿を現したのだ。

 

今まで以上に強力な魔力を備えた新たな魔王。

それまでの魔王と引けを取らないとされる新たな魔王の従騎士達。

 

終わりなき戦いの新たな幕が開いた時、人々の希望であった六勇者は誰一人として帰らず……。

既に満身創痍であった人々の軍隊は、魔王軍の攻撃により驚くほどあっけなく瓦解した。

 

多くの国が魔王軍に蹂躙されていく中、人々は大国に身を寄せ、必死の抵抗を行った。

 

そして現在。

数多の勇者が魔王軍に挑み、魔王の姿を見ることすらなく消えていった。

今や魔族の攻勢の前に完全に防戦一方となり、滅びを待つ形となった人々は、新たな大勇者を求めていた。